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次の日は必ず二日酔い:パート3

「いま大橋につきました。目の前にパチンコ屋があるとこ」

予定より30分早く僕の携帯が鳴る。6時に大橋と約束していたから、携帯がなる前に今日中に作っておきたかった資料が中途半端だ。
「もう到着したらしいので向かえに言ってきます」とボスに報告し、ドアクローザーの調整されていない扉で鈴を鳴らす。

1ヶ月ほど前、モノコトのメンバー数名が揃っている酒の場で「月ギャラで山田脩二にしゃべってもらおう!」と誰かが口にした。
たしかにおもしろい話ではある。が、誰とは言わないが次の日に苦しむのはそれを口にした本人である。

「脩さん、9月は空いていますか?」、「9月の下旬は開いてるよ。」と山田脩二。
月ギャラについて説明をし、9月下旬の24日は祝日だから25日はどうですか、とお願いした。

彼はこういった話は絶対断らない。「自分の話を聞いて頂ける」という謙虚な気持ちが今年69歳の彼にはある。この電話の相手が安藤忠雄だったならば「ギャラはいらんで!」と言ってくる。器の違いである。(山田脩二が安藤忠雄に対談を依頼した際の話である。)

大橋駅に早足でかけつける。麦藁帽子に長いヒゲ、探さなくてもすぐわかる。

・「hazime、コーヒーが飲みたいなぁ」
・「普通のコーヒーとおいしいコーヒーどちらがいいですか」
・「普通でいい、面倒だから近くで飲みたい」

ミスタードーナーツに連れて行く。「山田脩二とミスタードーナツでお代わり自由のお手軽コーヒーを飲む」なんてのもおもしろいじゃないかと思ったからだ。が、案の定断られた。
そもそもコーヒー飲みたいなんてびっくりだ。いつもならしゃべる前に一杯引っ掛けるのが彼のスタイルだろう。調子が狂う。
そんなことを思いながら元芸工大正門すぐそばにある喫茶店に向かい、コーヒー豆を一粒づつ選び、ゆっくりと入れてくれるオーナーを待ち、カウンターに座るカメラをもった2人の女性を気にしながら、建築の話をした。調子が狂う。

事務所へ戻り、映写機に自分の手で一枚一枚ポジを入れる山田脩二。
スクリーンに自分の写真を写しながらしゃべる彼は不思議な感じがする。「写真家って自分の写真についてこんなによくしゃべるものなの?」って正直思った。それに妙にしゃべりがうまい、まるで落語家だ。聞いている人間があごを痛くするくらいよく笑わせる。2人で飲んでるときのようについついつっこみを入れてしまう僕はむしろ邪魔ものだ。

そりゃそうだ、スクリーンに映る彼の撮った六本木ヒルズが”ボケ”でそれに彼はつっこみを入れているのだから。数少ない純粋に美しいもの、淡路に自生する植物たち、もしくは自分の瓦の作品以外は、日本がネタ帳に書き留めた”ボケ”である。
写真そのものに批評性があるのに、彼はさらにしゃべりで追い討ちをかける。

しゃべりはスライド会が終わっても続いた。いつものように3件はしご、最後の2件は上機嫌で両手を掲げて”舞”を舞う山田脩二。彼をタクシーに乗せたとたん、残ったメンバーは我にかえり吐き気が襲う。

写真にしても瓦にしても、そしてしゃべりに舞、彼は僕らの麻薬である。
ご使用に際しては、「使用上の注意」をよく読んで正しくご使用ください。

hazime

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by mono_koto | 2007-10-01 18:03 | MONDAY GALLERY
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